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広島高等裁判所 昭和31年(ネ)268号 判決

控訴人 高田栄

右代理人弁護士 中川鼎

被控訴人 株式会社広島相互銀行

右代表者 榎並栄

右代理人弁護士 田坂戒三

主文

一、本件控訴を棄却する(第一審の訴について)。

二、被控訴人(債権者)、控訴人(債務者)第三債務者中国電力株式会社を当事者とする広島地方裁判所昭和三十年(ヲ)第五一〇号転付命令によつて被控訴人が取得した債権は存在しないことを確認する(当審の訴について)。

三、訴訟費用中第一審の分は控訴人、当審の分は被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は始め債権者被控訴人、債務者控訴人、第三債務者中国電力株式会社を当事者とする広島地方裁判所昭和三十年(ル)第二四九号及び(ヲ)第五一〇号債権差押及び転付命令は各無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求めたが当審でこれを取下げ新に主文二、同旨の判決を求め、被控訴代理人は前訴の取下に同意せず本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求め、後訴につき控訴人の請求を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人において「本件転付命令は控訴人の訴外中国電力株式会社に対する債権が発生しない以前に発せられたものであるから右転付命令によつては被控訴人は実質的には何等債権を取得しない。然るに同訴外会社は該転付命令が発せられたことを理由に控訴人の退職給与金中本件金四十四万七千百六十一円につきこれが支払に応じない。従て控訴人としては右債権不存在確認を求める利益を有する。尚控訴人が年令的には昭和三十年十二月十日停年年齢たる満五十五歳に達したことは認める」と述べ、被控訴代理人において「右債権不存在の事実を否認する。控訴人は昭和三十年十二月十日を以て停年退職となり同日以降退職給与金を受領し得る権利を取得したものである」と述べた外は何れも原判決事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。

立証として控訴代理人は甲第三・四号証、第五号証の一、二を提出し、当審証人川崎貞雄の証言を援用し、乙第三、四号証の成立を認めると述べ、被控訴代理人は乙第三・四号証を提出し、甲第三、四号証の成立は不知、甲第五号証の一、二の成立は認めると述べた外は当事者双方の証拠の提出、認否、援用は何れも原判決の摘示と同一なのでここにこれを引用する。

理由

控訴人は当審において請求の趣旨を変更して訴の変更をなし前訴については訴の取下をなしたが被控訴人はこれに同意しないので先づ前訴の当否について考えてみるに、当裁判所も亦原判決と同様本訴は確認の訴の対象となし得ないものを訴訟物とするもので確認判決を求める法律上の利益を欠くものと判断したがその理由は原判決理由中の説示と同一なのでここにこれを引用する。従てこれを不適法として却下した原判決はもとより相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。

次に訴の変更された後訴について考察するに、控訴人が訴外中国電力株式会社社員であつたこと、控訴人が昭和三十年十二月十日満五十五年の定年に達したこと、控訴人が右会社からの退職により退職給与金百十七万三千百九十円(但し税金引去り額)の債権を取得したこと、控訴人の債権者である被控訴会社は右債権額中四十三万七千百六十一円につき昭和三十年十二月二十六日広島地方裁判所昭和三十年(ル)第二四九号同(ヲ)第五一〇号債権差押及び転付命令を受け該命令が同年十二月二十八日債務者控訴人に、同月二十六日第三債務者中国電力株式会社に送達されたことは当事者間に争がない。然るに控訴人は右退職給与金債権は昭和三十年十二月三十一日取得したものであるから右転付命令の送達を受けた当時は右債権は存在しなかつたと主張し、被控訴人は停年退職の場合は停年の日時到来とともに当然退職給与金債権が発生し控訴人は昭和三十年十二月上旬定年に達したから右転付命令により被控訴人は本件債権を取得したと抗争するので考えてみるに、原審並びに当審証人川崎貞雄の証言により成立の認められる甲第一乃至第四号証を綜合すれば、訴外中国電力株式会社においては同社々規の退職金規程、就業規則及び労働協約によつて職員の停年は満五十五歳とし停年に達した月の末日に退職するものとし、停年退職の場合は普通の退職金に少くとも八パーセント以上加給されることになつて居り、控訴人は前示のように昭和三十年十二月十日満五十五年の停年に達したが右規約により同月三十一日まで勤務して退職となりその辞令を受け同日前示退職給与金百十七万三千百九十円の債権を取得した事実が認められ右認定を覆えすに足る証拠はない。然らば前記退職給与金債権は控訴人が停年に達した日でなくその月の末日即ち昭和三十年十二月三十一日始めて取得したもので前示差押転付の各命令が控訴人に送達された同月二十八日当時は未だ該債権は発生していなかつたものであるから差押命令は暫く措き転付命令はその実質的効力を得るに由なく、これにより債権者である被控訴人が該債権を取得し得ないことも明白である。

而して被控訴人が該債権を取得したと主張しているのであるからこれが不存在確認を求める利益を有すること勿論であるから控訴人の本訴請求を認容すべく、右訴は当審において提起されたものであるから第一審として裁判することとする。

よつて前訴、後訴を通じて訴訟費用については原審の分は控訴人、当審の分は被控訴人に負担せしめるを相当と認め民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のように判決した。

(裁判長裁判官 岡田健治 裁判官 佐伯欽治 松本冬樹)

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